賃貸物件を探していて好立地で広いのに、思いのほか値段が安いことがあります。不動産会社やオーナーが空き部屋にしたくないため、格安で提供することもありますが、過去に事件や自殺があった事故物件かもしれません。
事故物件について明確な定義はありませんが、通常は前の居住者が何らかの原因で死亡した住宅、マンションやアパートの部屋を指します。中には「幽霊が出る」などと科学的根拠のないうわさが流れ、住人が定着しないところもあります。
事故物件は一般に殺人事件など刑事事件で死者が出た場所や自殺があったところと考えられています。通常の病死は該当しないことが多いようですが、高齢者の孤独死で長期間、発見されず、室内がとても汚れたときも、事故物件に加えられることが増えてきました。高齢化時代を迎え、孤独死が珍しくなくなっていることが、増加の理由に挙げられます。
こうした事件や孤独死は心理的瑕疵に該当し、宅地建物取引業法の重要事項説明で物件の損傷と同様に告知事項とされています。しかし、どこまでさかのぼって告知するのかについて、はっきりした基準はありません。
過去の民事裁判をみても、ケースバイケースで結論はまちまちです。東京地裁は2006年、自殺から1年半の物件について告知義務があるとしましたが、2001年の判決では自殺から2年の物件で告知義務なしとしています。
裁判所 | 内容 |
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大阪高裁 (1962年) | 心理的欠陥が瑕疵に該当すると判断 |
大阪高裁 (1962年) | 売買時点で取り壊されていた建物内で約7年前に自殺があったことは瑕疵に当たらず、告知義務はない |
横浜地裁 (1989年) | 6年前にマンションのベランダであった自殺は瑕疵に該当し、告知義務がある |
東京地裁 (1995年) | 約7年前の自殺は、その住宅の隠れた瑕疵に該当する |
浦和地裁川越支部 (1997年) | 5カ月前に起きた建物内での自殺は瑕疵であり、売り主が瑕疵担保責任を負う |
東京地裁八王子支部 (2000年) | 農村地域での殺人事件は50年が経過しても説明すべき瑕疵に当たる |
東京地裁 (2006年) | 賃貸ビルの屋上からの飛び降り自殺は瑕疵に該当しない |
東京地裁 (2006年) | 賃貸アパートの階下の部屋で起きた半年前の自然死は瑕疵に当たらない |
大阪高裁 (2006年) | その土地の上で発生した8年7カ月前の殺人事件は瑕疵に該当し、告知義務がある |
東京地裁 (2008年) | 2年1カ月前の賃貸マンションでの飛び降り自殺は瑕疵に該当し、告知義務がある |
大阪地裁 (2009年) | 8年9カ月前の他殺が疑われるマンション内での変死は、告知義務を持つ |
*ウエストロージャパン、RETIO、詳解不動産仲介契約434、判例タイムズ、判例時報、判例秘書から作成
この2例だけをみれば、告知義務があるかどうかの境界線は1〜2年に見えますが、2014年の高松高裁は約20年前にバラバラ殺人と自殺があった土地に対し、告知義務があるとの判決を下しました。近隣住民の記憶に深く残っていることが理由に挙げられています。
不動産会社の中には、事故直後の入居者に事故物件であることを伝え、その次の入居者には伝えないところもあります。ただ、不動産会社やオーナーが意図して事件や自殺を告知しなければ、損害賠償の対象となります。2013年に神戸地裁尼崎支部は居住者の自殺を告知しなかったオーナーに慰謝料の支払いを求める判決を下しています。
家賃が異様に安いと感じたときは、事件や自殺がなかったのか、不動産会社やオーナーに質問しておく方が良いでしょう。
その物件が事故物件かどうかを知る方法は不動産会社やオーナーに聞く以外にあるのでしょうか。全国の事故物件情報を公開するウェブサイトがありますが、すべての情報を網羅しているとは限りません。
図書館にある新聞で事件事故の記録を調べる方法もありますが、これは手間がかかり過ぎます。その物件近くに古くから住む人や長く営業している店で聞くのが良いでしょう。